私が担当する接遇マナー研修では、約1時間をスピーチに割きます。マナー研修の1日コースは6時間ですから、およそ6分の1もの時間を使うわけです。自己紹介スピーチがスムーズに進むか否かで、その後の研修成果が大きく左右されるといっても過言ではありません。それほど重要な時間です。
私の研修では、自己紹介スピーチを、アイスブレイキングの一つとして行います。アイスブレイキングとは、氷を砕くという意味です。研修前の張り詰めた緊張感漂う空気を打ち砕き、リラックスしたムードに変えていく一つのきっかけ作りです。研修開始前というのは、初対面同士が集い、何が始まるのか分からない不安な気持ちでいっぱいの状態です。その日初出勤のスタッフであれば、ドキドキ度は最高潮のピークに達しているはずです。アイスブレイキングとして私が最もよく使うのは自己紹介スピーチですが、その他にも他己紹介スピーチ、 SK 法などがあります。
自己紹介スピーチの目的を挙げておきます。
1. アイスブレイキング
2.チューニングのための情報収集
3. 受講生の顔と名前を一致させる
4. 話を聴くための訓練
5. 話すための訓練
では、詳細を説明していきます。一つ目のアイスブレイキングの意味については、前述の通りです。また、互いの情報交換をすることで、より早く円滑なコミュニケーションを図るための準備作業としても機能しています。さらに、緊張をほぐしリラックスしていただくために、“動き”を入れるように工夫しています。
まず、スピーチの順番の決め方から。例えば、本日の受講生は 15 名だとします。そこで、ホワイトボードには、1〜 15 までの数字を書きます。
「今からスピーチの順番を決めます。順番はみなさんのお好きな数字を選んでください。では、どうぞ。早い者順です!ご自分の希望の順番を教えてください。先にスピーチを終わらせておいた方が楽ですよ。さあ、手を上げてください」と説明をします。最初はボチボチしから上がらない手も次第に積極的になり、ほどなく順番が決定します。こんな簡単な方法でも、雰囲気は随分リラックスするものです。
決まったら、スピーチの順番通りに席替えをおこないます。(私の研修では、机を用いず椅子だけを使用します)。講師を中心として半円になって着席してもらいます。理由は、受講生同士互いの顔をしっかり見ることができるだけでなく、講師がどの受講生とも同じ距離で接することができるからです。さらに居眠り防止にもなります。
こうした準備を経て、いよいよスピーチが始まります。実は、このスピーチの順番はあってないようなものなのです。長時間人の話を聞き続けるというのは、大変な作業です。そこで、一つ仕掛けをします。途中から順番を変えるのです。例えば、すでに5番の人までスピーチが終了していたとします。
「では、今から順番をかえます。ここからは 10 番の方からスピーチをお願いします!」
「えっ!」一瞬場は騒然となります。
研修ではいつ自分の順番が来るか分からないし、常に緊張感を持って能動的に研修に参加しなければならないということを、できるかぎり早く気付けるようにしています。 |