スピーチ終了後、受講生の皆さんにはある課題に取り組んでもらいます。それは、「右隣の人のスピーチを要約して下さい」というものです。方法は、口頭で行う場合と、ペンとメモ用紙をもって文字にするやり方があります。時間が許すのであれば、後者の方が望ましいです。きちんと話を聞き取れている人は、全体の 2 割程度というのが現状でしょうか。
以下はよくあるパターンです。
・スピーチで使用していた言葉を、普段自分が使い慣れたよく耳にする言葉に置き変えてしまう(その時点で、細やかな言葉のニュアンスが変わっている)
・全く別の言葉が記憶されてしまい、話そのものが別のストーリーに変わっている(中学時代の話がいつのまにやら高校時代に変わったり、飼っているイヌがネコに化けたりします)
・スピーチの要約なのに、自分の意見が混在している。
これは日頃、いかに人の話をいい加減に聴いているかどうかをスピーチ実習を通して気付いてもらうことが目的です。我々人間は人の話を聴く時に、ある種の癖が出てしまうようです。まず一つ目は「フィルター」です。ここでは自分にとって興味、関心のない事柄などがふるいにかけられ、あっさりと捨てられてしまいます。次に「変換」です。運良くフィルターを通過してきた言葉たちも、今度は“自分の考え方の枠組み”を通して、別の表現に置き換えられてしまいます。同じ言葉を聴いても、人によって感じ方は異なるのです。入ってきた話の内容や言葉は、自分の経験則に従って置き換えられ、自身がよく使っている表現に変換されていく傾向があります。さらに、そこから連想される自身の経験などもゴチャマゼになり、どこからどこまでが相手の話だったかわからなくなってしまうこともあります。
私たちはこの癖を踏まえた上で、相手の話しに耳を傾けなければなりません。
“この話を通して、私に伝えたいことは何だろう?”ということを、常に頭に描き話しを聴いてもらいたいのです。そうしないと、相手とのコミュニケーションを円滑に進めることができなくなってしまいます。相手が投げたボールを正確な位置へ戻さなければ、定位置へ戻すことにエネルギーが注がれて不必要な労力を要します。最悪の場合は、話はずれたまま、後味の悪い感情の残る会話になってしまうケースもあるのです。
“この話を通して、私に伝えたいことは何だろう?”このセンスをもつのと、そうでないのとでは、明らかに聴く力に差がでてきます。スピーチを通してその重要性を強く伝えています。 |